猫を抱いて象と泳ぐ

“チェスの海を泳ぐ”そう表現される、とても不思議な世界観が心地よい作品です。
リアルなようなリアルじゃないような…チェスがメインの話ですが、ルールをまったく知らない私ですがおもしろそう!こんなに奥深い世界ならやってみたい、勉強してみたい、と強く感じさせられました。
物語はチェスの名手になる少年の、数奇な運命を時間経過で進んでいくのですが、チェスの駒に人格を与えるような描き方で、駒の動き(ルール)を性格のように描いてあったり、彼を取り囲む人々も風変わりな人たちが多く、序盤から映像が鮮明に立ち上ってきます。
それぞれに与えられる運命を、抗うことなく受け入れて昇華していく美しさ。
置かれた状況に不平をこぼしてみたり他人を羨んだり…そんな自分を重ね見て、けっして諦観ではなく、与えられた場で輝く静かな力強さを、作品全体で感じました。
私が一番好みだった場所は、主人公のチェスの師匠である巨漢な男性が住んでるバス。
私がこどもだったら自分をまるごと受け止めて対等に接してくれるこの師匠のもとに、そして魅惑的なおもてなしとバスのなかで出来上がった世界にずっと入り浸るだろうなぁ…なんて想像しました。
あんな風景、小川洋子さんでないと書けないなぁ。どっぷりワールドに浸れた幸せな作品でした。