フローラ逍遥

今なおカルト的な人気を誇りマルキ・ド・サドなどの翻訳などでも知られる仏文学者、澁澤龍彦の晩年に書かれた、花にまつわるエッセイ集です。

澁澤龍彦というと、退廃的で耽美的でフェティッシュな題材を扱ったエッセイが真っ先に思い浮かぶという人も多いかと思いますが、この本はもう少しゆるい印象というか、いい意味で肩の力が抜けたようなところのある一冊だと感じました。

この本では25種類の花が題材に取り上げられていますが、それぞれが大体見開き二ページ程度に収まっているので気楽に読むことができました。

内容も少し柔らかめで、私生活や過去の思い出も絡めながら時にユーモラスに、親しみある語り口で文章が綴られています。

とはいえ、往年の作品のように膨大な知識を背景にした縦横無尽な切り口は健在で、たとえば冒頭の「水仙」の章では、プリニウスを引用しながらナルキッソスの神話と麻酔(ナルケ―)の作用を融合させたせた見解をさらっと披露したりもします。

内容がコンパクトにまとまっているので、ちょっとした隙間時間や、寝る前などにさらっと一章読むこともできますし、たった数ページ読むだけでも知的好奇心を刺激される楽しみを味わえ、思わずワクワクしてしまうこともしばしばでした。

また、一つの植物につき三点、合計七十五点の図版が収録されており、これがとても美麗で見ごたえがあります。

大判のハードカバーであればより一層堪能できるのでしょうが、現在入手可能な新書サイズの本でもすべての図版がフルカラーで収録されており、十分に楽しめます。

眺めるだけでも楽しめる本だと思いました。

巻末にはそれぞれの図版についての解説も載っており、植物画や植物図鑑の歴史の一端に触れることができ良かったです。

読んで楽しめるのはもちろん、持っているだけでも少し嬉しくなってしまうような一冊だと思います。