白石一文『​ 僕のなかの壊れていない部分』はあるある小説

主人公は3人の女性と同時に付き合っています。付き合っているといっても関係がある、という程度の希薄な関係。体だけのようにも見えるし、体だけ、とお互い割り切ることによって、結果的に誰よりも心も通い合っているような…。その主人公の女性達に対する独白が時々意地悪で、でもこういう考え方私もする時あるなーと思ったり。同じように、主人公を取り巻く登場人物の考え方が、ものすごく独善的なのが面白いです。おかしな人ばかり出てくるのに、ああ、こういう人いるいる、と読んでいて不思議なあるある感に包まれます。

「幼い頃に辛い思いをしたから、トラウマ体験があるから…といろんなことに臆病になってしまって、周りの人を傷つけてしまっている、俺って本当バカ…」みたいなことを、時々座った目でバーで語っているおじさんいますよね。主人公はあんな感じです。白石一文さんは確信犯的にこのような主人公を作り上げたような感じがします。そんな主人公に愛とか死とか生とかを薄っぺらく、でもそれなりに思慮深く考えさせ、語らせ、物語が進んでいきます。あえてそういう人に語らせるところに、自分もあるある、と思ったり、こういう人いる!と思わせたり、読者に身近なこととして感じさせているのだと思いました。そんな作家の野心と仕掛けがうまい具合に成功している小説だと思います。あまり他にはないタイプの小説なので、友人などには賛否両論ですが、私は面白く読めました。